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数学、ときどき統計、ところによりIT

理論と実践の狭間で漂流する数学趣味人の記録

テンソルの具体的表現

テンソル積は同型を除いて唯1つに決まりますが、この「同型を除いて」というのが曲者で、一見すると別物なのに同じものを表している、ということが起こります。これがテンソルの実態を掴みにくくしている理由の1つになっています。今回はその点について詳しく見ていきたいと思います。

双線型汎関数としてのテンソル

定理 VW を有限次元線型空間として、線型空間 T

T:=\mathrm{Bilin}(V^{*}\times W^{*},\mathbf{R}),

線型写像 \kappa:V\times W\to T

\kappa(v,w)(F,G):=F(v)G(w),\,\,F\in V^{*},\,G\in W^{*}

で定義すると (T,\kappa)VWテンソル積である。

証明 \dim V=m\dim W=n とおく。T について

T=\mathrm{L.h.}\left[\{\kappa(v,w)\,|\,v\in V,\,w\in W\}\right]

が成り立つ。実際、VW の任意の基底をそれぞれ \{a_i\}_{i=1}^{m}\{b_j\}_{j=1}^{n} とし、さらにその双対基底をそれぞれ \{a_{i}^{*}\}_{i=1}^{m}\{b_{j}^{*}\}_{j=1}^{n} とすると任意の F\in V^{*}G\in W^{*}

F=\displaystyle \sum_{i}F_{i}a_{i}^{*},\,\,G=\sum_{j}G_{j}b_{j}^{*}\quad(F_{i},\,G_{j}\in\mathbf{R})

と書くことが出来るから、

\kappa(a_{i},b_{j})(F,G)=F(a_{i})G(b_{j})=F_{i}G_{j}.

よって任意の \phi\in T に対して\begin{align*}\phi(F,G) & =\phi\left(\sum_{i}F_{i}a_{i}^{*},\,\sum_{j}G_{j}b_{j}^{*}\right)\\& =\sum_{i,j}F_{i}G_{j}\phi(a_{i}^{*},b_{j}^{*})\\& =\sum_{i,j}\kappa(a_{i},b_{j})(F,G)\cdot\phi(a_{i}^{*},b_{j}^{*})\\&=\left(\sum_{i,j}\phi(a_{i}^{*},b_{j}^{*})\kappa(a_{i},b_{j})\right)(F,G)\end{align*}となり \kappa(v,w) の線型和で書ける。

次に U線型空間\Phi_{U}\in\mathrm{Bilin}(V\times W,U) とする。このとき f_{U}\in\mathrm{Lin}(T,U)

f_{U}(\phi):=\displaystyle \sum_{i,j}\phi(a_{i}^{*},b_{j}^{*})\Phi_{U}(a_{i},b_{j}),\,\,\phi\in T

と定義すると、f_{U} はwell-definedである。つまり f_{U} は基底 \{a_i\}_{i=1}^{m}\{b_j\}_{j=1}^{n} の取り方に依存しないことが示せる。

\phi=\kappa(v,w),\, \displaystyle v=\sum_{i}v_{i}a_{i},\,w=\sum_{j}w_{j}b_{j}

に対して

\phi(a_{i}^{*},b_{j}^{*})=\kappa(v,w)(a_{i}^{*},b_{j}^{*})=a_{i}^{*}(v)b_{j}^{*}(w)=v_{i}w_{j}

であるから

\Phi_{U}(v,w)=\displaystyle \sum_{i,j}v_{i}w_{j}\Phi_{U}(a_{i},b_{j})=f_{U}(\kappa(v,w)),

つまり図式\begin{equation*}\xymatrix{V\times W\ar[rd]_{\Phi_{U}}\ar[r]^{\kappa} & T\ar[d]^{f_{U}}\\ & U}\end{equation*}は可換になる。

f_{U} の一意性を示す。

\Phi_{U}=f_{U}\circ\kappa=f'_{U}\circ\kappa

とすると\begin{align*}f_{U}(\phi) & =\sum_{i,j}\phi(a_{i}^{*},b_{j}^{*})\Phi_{U}(a_{i},b_{j})\\& =\sum_{i,j}\phi(a_{i}^{*},b_{j}^{*})(f\,'_{U}\circ\kappa)(a_{i},b_{j})\\& =f'_{U}\left(\sum_{i,j}\phi(a_{i}^{*},b_{j}^{*})\kappa(a_{i},b_{j})\right)\\& =f'_{U}(\phi).\end{align*}最後に (T,\kappa) の一意性を示す。(T,\kappa)(T',\kappa')VWテンソル積とする。このとき図式\begin{equation*}\xymatrix{V\times W\ar[rd]_{\kappa'}\ar[r]^{\kappa} & T\ar[d]^{f}\\ & T'}
\end{equation*}を可換にする、つまり \kappa'=f\circ\kappa を満たす f\in\mathrm{Lin}(T,T') がただ1つ存在する。同様に図式
\begin{equation*}\xymatrix{V\times W\ar[rd]_{\kappa}\ar[r]^{\kappa'} & T'\ar[d]^{f'}\\ & T}\end{equation*}を可換にする、つまり \kappa=f'\circ\kappa' を満たす f'\in\mathrm{Lin}(T',T) がただ1つ存在する。よって

\kappa=f'\circ(f\circ\kappa)=(f'\circ f)\circ\kappa.

一方、\kappa=\mathrm{id}_{T}\circ\kappa であるから一意性によって f'\circ f=\mathrm{id}_{T} となる。同様に f\circ f'=\mathrm{id}_{T'} も成り立つ。以上より TT' は線型同型である。\square

 

上記の定理は \mathrm{Bilin}(V^{*}\times W^{*},\mathbf{R})V\otimes W の具体的表現の1つであることを示しています*1

 

線型写像としてのテンソル

定理 VW を有限次元線型空間として、線型空間 T

T:=\mathrm{Lin}(V^{*},W),

線型写像 \kappa:V\times W\to T

\kappa(v,w)(F):=F(v)w,\,\,F\in V^{*}

で定義すると (T,\kappa)VWテンソル積である。

証明 \dim V=m\dim W=n とおく。VW の任意の基底をそれぞれ \{a_i\}_{i=1}^{m}\{b_j\}_{j=1}^{n} とし、さらにその双対基底をそれぞれ \{a_{i}^{*}\}_{i=1}^{m}\{b_{j}^{*}\}_{j=1}^{n} とする。このとき任意の \phi\in T

\phi=\displaystyle \sum_{i,j} b_{j}^{*}(\phi(a_{i}^{*}))\kappa(a_{i},b_{j})

と書けることに注意して、任意の線型空間 U\Phi_{U}\in\mathrm{Bilin}(V\times W,\mathbf{R})に対して f_{U}\in\mathrm{Lin}(T,U)

f_{U}(\phi):=\displaystyle \sum_{i,j} b_{j}^{*}(\phi(a_{i}^{*}))\Phi_{U}(a_{i},b_{j})

と定義すると f_{U} はwell-definedである、つまり f_{U} は基底 \{a_i\}_{i=1}^{m}\{b_j\}_{j=1}^{n} の取り方に依存しないことが示せる。そして f_{U}\Phi_{U}=f_{U}\circ\kappa を満たす唯1つの線型写像になっている。以上から(T,\kappa)テンソル積である。\square

 

上記の定理から \mathrm{Lin}(V^{*},W)テンソルV\otimes W の具体的な表現の1つであることが分かります。

 

こうして実体としては1つのテンソルが複数の表現を取ることを見ました。このことは数学的な事実として興味深いというだけでなく、応用の場面でも議論を円滑に進める為に役立てられています*2

*1:同時にテンソルの存在定理の証明にもなっています。

*2:実際、ひずみテンソルや応力テンソル、およびそれらを結びつける弾性係数テンソルに関する議論の中で見ることが出来ます。